月刊BLUEBNOSE 2026年07月号(#31)『デザインは融けてない』
今回は、とある書籍を下敷きにしつつ、個人的に思うことをぶちまけてみました。
四角い画面ありきの世の中、本当に便利で豊かと言えますか?
「ポイントカードはお持ちですか?」
2026年半ばになっても、会計の際に聞かれるフレーズ。
以前と異なるのは「アプリを入れていただいて」。
長らく高度なポイントサービスを導入している大手ならともかく、コロナ禍頃から独自の電子マネーを導入し始めたような、準大手や中小企業にも、何となくその波が来ています。
モバイルSuicaから12年遅れでモバイルICOCAもスタートし、FeliCaという優秀な物理トークンから何でもスマホ、何でもアプリに集約されてしまう時代へ。
持ち運びを考えたら確かに便利だと思う反面、何でもかんでもスマホやアプリというのも、食傷気味。
辟易しつつあるのは、私だけではないでしょう。
IoTやガジェットの時代が来ると言われながら、結局はスマホに集中。
こんなはずじゃなかったのではという想いを、細やかに綴ってみたいと思います。
スマホ、ネットを前提にし過ぎ
財布もカメラも電話も、インターネットブラウジングも。
スケジュールも連絡先も、各種SNSも。
音楽もラジオもヘルスケアも、ビデオ通話も、暇つぶしも。
ありとあらゆる機能・用途が、スマホやアプリに詰め込まれているような気がします。
見立てや使い方一つで姿を変える噺家の扇子や、簡易のお皿やメモ、塵紙にもなる懐紙以上に便利なことは間違いないでしょう。
そして、現代社会を人並みに生きていく上では、衣食住の次に来るレベルの必需品になりつつあります。
数ある家電の中でも、重要度は高いでしょう。
スマホがほぼインフラレベルにあるということは、ギガを減らさないために必要なWifi、モバイル回線を使わないインターネット接続環境もまた、同等の位置付けを占めています。
イベントの受付をするためにQRコードやネット接続が必要で、ポイントを貯めたり特典を受けるためだけに、会計やオペレーションを中断してでもアプリをダウンロードしたり、立ち上げを待たなければならない。
何でもスマホに集約して電子化し、クラウドで管理すれば確かに持ち物は減らせるし、スマホさえ持ち歩けば何でもできます。でも、ネットワークやシステムがダウンしてしまえば、せっかくの利便性は機能不全に陥るし、スマホの紛失や置き忘れ、盗難は日々の生活に大きな影響を及ぼします。
生活を送る上でも、仕事をする上でも必需品に近いのに、水道や光熱費、食費のような補助は少ないし、通信費削減の取り組みが進んだ結果、端末の割引は無くなって、買い替えのハードルは上がっている状況です。
生活に余裕があるのならまだしも、当たり前のように数年で端末を更新したり、OSやアプリをアップデートし続けるのも、一杯一杯。正直にいうと、「何でもアプリ、何でもスマホ」に対してげんなりしてしまっているのは、私だけでしょうか......。
One to One + スマホは理解できるけど
日本国内は人口減少に差し掛かり、これからは人数よりLTVだとOne to Oneマーケティングに力を入れたくなるのは、よく分かります。
会員制サービスとして囲い込み、個人情報や位置情報をプライバシーに配慮しながら程々に計測しつつ、個々の端末にプッシュできる先として、スマホやアプリに目を向けたくなる気持ちも、マーケティングに携わる一員として、重々承知しています。
マスにアプローチして広告をばら撒くのなら、情報を積み上げてピンポイントでアプローチしたい。
その精度を上げる上では、スマホとアプリを紐づけ、自前の環境下でトレースすべき。
それもよく分かりますし、そういう仕掛けをしたくなるのもよく分かりますが、分かるのと納得する、容認するのは別の話。
一ユーザーとして、何でもかんでもスマホでやりたくないし、これ以上余計なアプリは増やしたくない。
必要最小限で済ませたい人にとっては、今の「スマホ集約」や「何でもアプリ」なマーケティングは、正直に言って、ノーサンキュー。
ポイントを貯めて得したり、数%の割引を受けるために、ただより高い電話番号やメールアドレス、あるいは名前やSNSアカウントを提供しなければならない。その面倒臭さと、トレードオフのあまりのバランスの悪さが既に露呈してしまっているために、顧客はますます個人情報を出さなくなっているという悪循環。
それにも関わらず、リターゲティングやリマーケティングの起点になりそうなWeb広告は、差し込み方や「閉じる」ボタンの問題が多過ぎる。モバイルでのブラウジングすらかなり億劫で、出先でない限りは滅多にブラウザを開かないようになっています。
何なら、端末が古くなってバッテリーがへたって来ると、出先でも必要最小限にしかスマホを操作しないため、出先でもブラウザを開かない。
これでも一人のWebクリエイターで、Webサイトを作る側、マーケティングを仕掛ける側。
同業他社の施策も学ぶ上で、どちらかというとウェルカムな自分ですら、そんな状況です。
私以上に腰が重い人や、デジタルな施策に不慣れな人なら、もっと辟易しているかもしれません。
マーケティングや広告に不信感を抱かせ、施策の難易度や前提となる先入観を悪化させているのは、仕掛けている自分達自身であるということに、もうそろそろ気がついても良いのではないでしょうか。
大きいスマホは本当に正しい?
実はつい先日、iPhone17eが出たタイミングで、OS的にも文鎮化が避けられないiPhone SE(第一世代)から乗り換えたばかりなので余計にそう思うんですが、最近のスマホはデカくて重い。
iPhone Airが出たと言われてもピンと来なかったんですが、 SEから17eに乗り換えてみて、よく分かりました。これなら確かに、軽い端末も欲しくなる。
同時に、ジョブズ亡き後のiPhoneは彼の思想に反しつつあるのかもしれないな、とも思ったり。
長らくSEから乗り換えずにいた、Appleユーザーとして風上にも置けない異端児なんですが......。
パソコンを持たず、タブレットやスマホで完結しようとするユーザーやご家庭が一定数いるのはよく分かるし、よりセキュアに二要素認証としてSMSにメッセージを送ったり、認証アプリで6桁の番号を入力させるのも、その意義はよく分かるんですが、スマホに何でもやらせようとしすぎでは?
スマホの役割を増やすなら、メモリも画面も端末も大きくせざるを得ないでしょうし、大きくなる分、重くなるのも当然です。
しかし、ジョブズが求めていたのはむしろ、余計なものを削ぎ落とす方向性だったのでは?
パソコンも使うユーザーとしては、セキュリティの観点から強固なのは分かるものの、パソコン一つで完結させられない仕様は、正直に言って面倒です。
いちいち、スマホを取りに行ってロックを解除し、「アレはどこだったっけ」と探さなければならない。
便利になるはずが、不便になってません?
セキュリティとしては、正しい手間なんですが、それにしたってーーと思ってしまいます。
デザインもガジェットも、全く融けていない
渡邊 恵太氏の著書、『融けるデザイン』が発売されたのが2015年1月。
著者自身による5年後のフォローアップからも、更に5年以上経過しています。
しかし、同書で述べられていたような「デザインが融ける」気配は一切感じられません。
IoTやスマート家電、スマートハウスも登場していますが、その利便性は結局ネット接続ありき。操作はスマホなどの四角い画面というUIありきです。
玄関用のスマートロックや、オフィス内の入退室管理も、物理キーやコード入力からネット接続や電源、スマホありきになりつつあります。
同時期に流行り始めた気がする「デザイン思考」も随分と持てはやされましたが、フレーズだけが先行した結果、何でもかんでも画面ありきのUI/UX。とにかく一箇所に詰め込む全部載せという状況です。
デザインは全く融けていないし、デザイン思考もどこへやら。
本当にデザイン思考が実践できているのであれば、こんなにもスマホ集中、何でもアプリの状況にはならないし、モバイルファーストやペルソナと言いながら、コンテンツや情報を微塵も削れない、リッチさを履き違えた重くて遅いWebサイトだらけになっていないでしょう。
スティーブやウォズニアックは何故、GUIやポインティングデバイスを採用し、後にiPodやiPhoneを世に送り出すことになったのか。
そして、その背景にある
最も重要な決定とは、何をするかではなく、何をしないかを決めることだ
シンプルさこそが究極の洗練だ
という哲学とはどういうことなのか。
四角い画面ありきのUIではなく、総合的な体験としてのUXを考え、メタファーやアフォーダンスを採用し、行動をこそデザインする。
それこそが、『融けるデザイン』や「デザイン思考」として必要な考え方だったのではないでしょうか。
今一度、ジョブズや"Less is more”の精神に立ち返るべきです。
デジアナ連携で、デザインは融かせる
物理的な鍵やスタンプカード、Felicaのような物理トークンの何が悪いのでしょう?
QRコード決済のように画面を立ち上げなくてもいいし、クレジットカードのように通信環境がなくてもささっと支払えて便利な現金。災害時に電気がなくても使えて、いざという時でも役に立ちますが、持ち合わせがなかった時に困る? 持ち歩くことを忘れたら困るのは、スマホやアプリも同じです。
マーケティングを仕掛ける側として求めたいのは、(個人を特定して)計測できるか否か。
そして計測した結果や現状をMAツールやCRMから追跡できるかどうか。
デジタル的なシステムとデータ連携ができ、デジタルとアナログの間を上手く繋ぐことができれば、アナログな物理トークンでも、何の問題もありません。
ショップカードやスタンプカードにも一意のIDを割り振ったり、それを入力してGoogleフォームなどのアンケートに回答してもらったり。その回答を持って追加でスタンプを押すようなフローを組んで仕舞えば、デジタルな仕組みを最小限にしつつ、擬似的なOne to Oneめいたことはできるはず。
Substackのようなメール配信型コンテンツへの登録を促したり、ショップカードを紹介用に特化させ、リファーラルが発生したら紹介主のスタンプカードにも恩恵があるようにすれば、物理トークンであっても、ユーザーの負担を最小限に抑えつつ行動をデザインできるでしょう。
マーケティングも会員制サービスも、MAやCRMも。
「何を計測するか」を現場に合わせてよく考え、ちょっと工夫を加えるだけでデザインは融かせます。
スマホありき、アプリありき、四角い画面ありきのモデルから離れて、一旦落ち着きましょう。
冷静になって考えれば、意外と簡単に「当たり前のこと」が見えてきます。
デザインを融かして利便性を追求したいなら、立ち止まること。
デザインの前に、アナタの思考を丁寧に融かしましょう。
隠れた豊かさと手触りを
表に現れる煌びやかさや派手さだけが、豊かさではありません。
むしろ、見えない部分、隠れている部分の芳醇さこそが、豊かさの本質じゃないでしょうか。
『融けるデザイン』を成立させたいなら、見えない部分、画面に現れない部分にも意識を向け、気を配るべきです。
『融けるデザイン』から10年超。
同書に書かれたこととは真逆の方向に突き進んだ結果、何でもアプリ、何でもスマホ。あるいは、ネット接続ありきのIoTガジェットな世の中に。
デジタル一辺倒というか、アナログな手触りを欠く弊害。
その面倒臭さも明確になりつつある今、改めてデザインというか、UIを融かす必要があるのでは。
創意工夫で、より便利に、よりスマートな社会を築いていきましょう。
デザインを融かしたいなら、ご相談ください
デジタルの利点とアナログの利点。
どっちも活かしたマーケティングをしたい、デザインを融かしたいという方がいらっしゃいましたら、いつでも気軽にご相談ください。
皆さんの現場に合わせたマーケティングや情報設計、計測や仕掛けも。
私たちが一緒に考えます。
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