月刊BLUEBNOSE 2024年06月号(#6)『オモロイ話は、ウルトラCの技芸の先に』

キャラクターやペルソナ、商品やブランドであれば複雑な魅力はどんな風に提示しても良いのに、ストーリーや物語はそうではない。その理由や難しさは参考文献に委ねつつ、どうウルトラCなのかをザッと語ってみました。物語を生かした訴求を、それでも自分でやるかどうか、少しでも参考にしていただけますと幸いです。
BLUE B NOSE 2024.06.21
誰でも

これまで別の媒体で複数回に渡ってペルソナの作り方や磨き方、魅力に関する話題など、作劇や創作由来のお話をして来ましたが、ビジネスやマーケティングの世界でも役に立ちそうなもう一つの要素、物語、ストーリーについても、この辺りで語ってみましょう。

どこの誰にどれだけ需要があるか分からないお話ですが、ここなら許容されると思うので、早速本題へ入っていきましょう。

ストーリー、物語にも、ポジティブだけじゃない総合力が欲しい

ペルソナを深掘りする過程や、魅力について語った記事で、二面性や奥行き、複雑さに関する話題をそれなりに展開して来たので、察しの言い方はもうお分かりかと思いますが、キャラクターやペルソナだけでなく、ストーリー(ライン)、物語でも、明るさやポジティブさ、プラスの要因以外のものもないと、魅力的なお話、オモロイ話になりません。

例えば、藤子・F・不二雄の『ドラえもん』に登場する秀才の出木杉くんや裕福な家庭の子であるスネ夫が、そのまま大した苦労もせずに名門の進学校や旧帝大、東大などへ進学して立派な社会人へなり、順風満帆な人生を送ったとしても、そこには予想外な展開もなければ、特筆すべき学びも特にないでしょう。

やはり、(一見すると)出来損ないに思えるのび太が主人公で、簡単には逆らえないジャイアンや意地悪なスネ夫がいる中、そのままののび太ではどうやっても高嶺の花でしかない静香ちゃんと近付くため、振り向いてもらうために、未来からきたドラえもんと様々な事件や出来事に向き合うから、面白くなっています。

時にはのび太から見るとプラスの位置にいそうなジャイアンやスネ夫がピンチに追い込まれ、一時的なマイナスの境遇へ追いやりつつ、最終的にはもう一度プラスの位置へ押し上げるとか、あるいはさらに深いマイナスに追い落とすなど、山や谷、オチを用意しておくことが魅力的な物語を作る上での基本となるでしょう。

シナリオ術や神話の法則、アウトラインやプロットを用いた小説執筆の教本を紐解いてみても、プラスの話、ポジティブな話を最後まで貫き、そのままプラスの展開だけが続く手法というのは掲載されていないと思います。ストーリーラインなんてどうでもいいギャグ漫画や、一瞬で終わる一話完結型の四コマ漫画ならそれでも構いませんが、ストーリーを楽しませたい、物語を味わって魅力を届けたいという場合、「良い話しかしない、良いところしか語らない」戦略は通用しない、と言えるでしょう。

「じゃあ、二面性、マイナスやネガティブな展開も用意して提示しよう」と思われたでしょうが、キャラクターやペルソナと異なり、ストーリー、物語の場合はその影響力は長期にわたって波及します。シナリオ術の書籍や神話の法則を整理した書物が分厚く、中々最後まで読み通せない、やり遂げられないのは、それだけの技術を要するから。

もちろん、「小説の書き方」や「シナリオ講座」といったセミナーを最後まで受講したからと言って、技芸やセンスが身につくとも限りません。そういった観点からすると、キャラクターやペルソナを作り込むのは案外簡単で、ストーリーやシナリオ、物語創作を考える上ではほんの序の口とも言えるかも。

小説の書き方やシナリオ術に興味がある方は、ペルソナの時にもご紹介した大塚英志氏の著作、『ストーリーメーカー 創作のための物語論』(https://amzn.asia/d/0bFC7a8E)や、もう少し書ける方は『書く人はここで躓く!: 作家が明かす小説の「作り方」』(https://amzn.asia/d/0dPiAiSH)などもオススメです。

フィクションは、シミュレーションという一面がある

小説のような文字媒体、怪談や口伝の民話や語りといった音声に限らず、ドラマや映画、ビデオゲームなど、ありとあらゆるフィクションには、シミュレーション、擬似体験という一面、役割があります。ニュースのような事実を報せる情報でもない、娯楽に過ぎない作り話をホモ・サピエンスがわざわざインプットしたがるのは、丸みを帯びた脳内で想像力を働かせ、その模倣や共感、学びを通じて生き延びて来た歴史があるから。

事実を再構成したお話だけでなく、現実に全く依拠しない話であっても、面白ければつい見てしまう、インプットしてしまうのは、その行為が役に立つから。そして、シミュレーションの要素があるのなら、できるだけ新しい展開、まだ見たことがないシミュレーションに触れ、学びのバリエーションを少しでも増やしたいと思うのも、自然な欲求です。

つまり、先が見える展開や意外性のない物語には、魅力を感じにくいとも言えます。

先の例で言えば、秀才の出木杉くんや裕福な家庭の子であるスネ夫が、すでに身につけた学力や周囲にあるリソースを使って、「そうなるだろうな」と予想された展開へ進んでいくのは、あまり面白味のあるシミュレーションではないでしょう。二人のファンであれば、そのプロセスややり遂げた姿も知りたいでしょうが、そうでないなら、どちらかというとその時々で苦労している様子や、それらを投げ打って全く違うことをやり始める展開の方が興味深くなるでしょう。

劇場版でジャイアンが優しくなりがちなのも似たようなもので、通常のテレビアニメや原作漫画の中ではレアな姿、中々見せてくれない表情を届けるためには、思い切ってそういうシチュエーションへおいた方が良いから。

シミュレーションという一面がある以上、新たな展開や意外な学び、教訓が全くない話は興味を持たれにくく、「すでに見た気がするお話」は早々受けない、というのも見逃せない原理原則です。

「良い物語」は神話、民話の中にある

どこで誰が語っていたかはすっかり忘れてしまいましたが、現代の面白い話は基本的に永井豪氏の『デビルマン』の延長にある、そうです。庵野秀明氏の『エヴァンゲリオン』も、影響を受けているとかいないとか。

そして、『エヴァンゲリオン』は更に、新約聖書や旧約聖書からの引用や、それらを踏まえたモチーフも多々登場します。『デビルマン』も紐解いていくと、根元にあるのはダンテの『神曲』や聖書の神話。

「良い文学(作品)とは何か」となると、いわゆるバカロレア的な方向、詩学や修辞学、構造主義や意味論、記号論といった世界を突き抜けて、哲学や数学方面にも顔を出してしまうので深追いしませんが、面白い話、良い物語というのは概ね、神話や民話の中に眠っているというのは妥当じゃないでしょうか。

怖い話やその手の伝説や伝承も、地域ごとの民話や民俗話に由来していたり、それらを取り込んだ童話や多様な二次創作も溢れているように、神話や民話からモチーフを借りる、あるいは再解釈を提示するといったやり方が基本となるでしょう。

参考書として挙げた『ストーリーメーカー』も神話の法則をベースとしていますし、著名なシェアード・ワールドのクトゥルー、クトゥルフも「神話」として創作が展開されていますし、世界各地の神話や民話を収集し、深ぼっていくとまだ見ぬ面白い物語、意外な展開というのは作りやすくなるかもしれませんね。

複雑すぎる筋、早過ぎる展開も御法度

映画のような映像作品でなくても、物語というのは根本的に時間芸術です。

ページを捲る手やコマ、セリフを追う目の速さに依存するマンガや、文字を追いかけて世界、行間を想像する小説の場合、「時間芸術じゃないのでは?」と思われそうですが、限られた誌面で必要十分な物語を届けようと思えば、無駄なコマ、無駄な記述は控えなければいけません。

更に、前後の「流れ」やペーシングを考慮することも非常に重要で、連続した時間の中で展開する以上、映画のように強制的に送り出される装置がなかったとしても、そこには「時間」を踏まえた配慮や映像的な配慮が必要になります。

どういうことかと言うと、物語を始める際にいきなりクローズアップ、セリフやアクションきっかけで始めない方が良いということ。受け手の興味を掴むための演出としてそう組み立てる場合であっても、必ず「天地人」、舞台設定や時代設定、登場人物の大まかな設定というのはしっかり盛り込み、大きな大前提からきちんと受け取れるように提示しないと、その先に広がる展開もスムーズに飲み込めません。

冒頭の情報量が大事だからと、とにかく事件を起こして先に先に引っ張ろうとするのも悪くはないですが、ある程度で情報を整理する踊り場、静止する間を取らないと、「落ち着いて消化する暇も与えてくれない作品、物語だ」と思われます。

また、作品の長さに応じて詰め込むべき情報、回収すべき物語の量というのも概ね決まっています。

「とにかく展開させることが大事だから」と目まぐるしく事件を詰め込み、どんどん次の展開を繰り広げることが得意なお国もあるようですが、やり過ぎてしまうと、キャラクターも物語も薄っぺらいものになりがちです。

重大な事件は重大な事件として、周囲の余白をしっかり取り、解決した後も十分な事後を描くようにしないと、その事件も登場人物も印象に残りません。個々のキャラクターを活かし、どのキャラクターも必要十分な役回り、意味合いを持って登場させ、魅力的に描き切るには、使える時間、割ける場面というのは限られてきます。

複雑にして受け手を振り回し過ぎない、十分な味わいを持たせてキャラクターもストーリーも味わってもらう。そういう配慮、気配りが重要だと筆者は考えています。

ネガティブな情報、ポジティブな情報をどんな匙加減、どんな順番で提示するべきか。それは各種シナリオ術や神話の法則等を十分学ぶと、ある程度見えてくるので、まずはそちらの学習を優先しましょう。この記事では、そこから先には踏み込まないので悪しからず。(ちゃんとした先生、教本で学ぶ方が良いでしょう)

筋とキャラクター vs 空気感 + 世界観

物語、ストーリーとして重要なのは展開の複雑さやキャラクターの魅力でしょうか。それとも、そこで繰り広げられる空気感や世界観の方でしょうか。別に対立する軸でもなく、答えは人それぞれだと思いますが、前者を重視し過ぎると「一回見たら十分」な消耗品になりがちです。

『〈面白さ〉の研究 世界観エンタメはなぜブームを生むのか』(https://amzn.asia/d/03f9tSWl)

等にも触れられていますが、空気感や世界観が重視されている作品の場合、その過程や世界を何度も味わいたくなってしまう中毒性みたいなものがあり、繰り返し鑑賞しても新たな発見がある、座右の書やバイブルとなる可能性を秘めています。

例えば、同書で取り上げられているジブリ作品、宮崎駿作品ですが、繰り返し見ても見飽きない要素を有しています。例のトーストが作られていくプロセスはいつ見ても美味しそうで、一度見たことがあっても何度でも見てしまうシーンです。

筋の複雑さやキャラクターの表面的な魅力を作り込んだところで、一回で満足されてしまう、そこで飽きられてしまう物語、作品になってしまうのは非常にもったいないことです。もし出来るのなら、出来上がった物語を生かしながら、世界観や空気感を伝える、あるいは浸りたくなる伝え方はできないものか、ご検討願えればと思います。

物語を活かすには、膨大な技芸、修練が必要

ここまで参考書を適宜提示しつつ長々と述べてきたように、物語、ストーリーの力を活かして魅力を伝える、ビジネスでも活用するためには、膨大な技芸や修練、あるいは作品に対する推敲やブラッシュアップが必要となります。

自社の歴史や商品、サービスにまつわるエピソードを上手に使って、顧客に魅力を訴えかけるのは簡単ではないと、お分かりいただけたのではないでしょうか。

自社がいかに凄いか、自社商品がいかに素晴らしいかといった話ばかりを中心の展開しても、誰も引き込まれてくれないし、せっかく良い物語を生み出せても、一回触れたら満足して飽きられてしまう。

何度も繰り返し触れたくなる物語にしたいなら、相応の技芸と気が遠くなるような修練、鍛錬が不可欠をすでに積んだ本業の方か、それをお金を払ってでもやりたいという珍しい方にお願いする方が賢明でしょう。

ご自身でスキルを積んで実践してみても良いですが、仮に技術が身についても、本人の才能や趣味趣向が世間や社会に受け入れられない、ハネるほどには受けないという可能性もかなり高い厳しい世界、残酷な世界でもあるので、それで身を滅ぼしても構わないという方でない限りは、物語、ストーリーの専門家、それを本気でやりたい人の力を借りましょう。

その決断が最良だと筆者は思います。

おしまいに

ストーリー、物語の力を活かして、より本腰を入れたコンテンツマーケティング、Web活用をしたいなら、多少は理解しているBBNを選んでみませんか?

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